遺伝子治療:ゾルゲンスマ

たまたま授業のアサインメントのテーマとして遺伝子治療を扱っていたところ、ついに日本でノバルティスのゾルゲンスマの薬事承認がおりることになったと知ったので記事にしてみました。

 

www3.nhk.or.jp

 

遺伝子治療は低分子、バイオロジックスに続く新しいモダリティ(機序)として注目を浴びていて、製薬各社はM&Aなどを通して、製品化に向けた動きを活発化させています。

 

answers.ten-navi.com

 

アメリカでは2017年にSpark ThereapeuticsのLUXTURNAが初めてレーバー先天性黒内障という目の疾患に対して開発・FDA承認を得ました。Zolgensmaはそれに続く2例目で2019年にFDA承認されています。

 

ちなみにCAR-T治療のキムリアも有名ですが、これは細胞治療に分類されるという理解です。キムリアはT細胞を患者から採取し、編集技術等を利用してCAR-T cellにした上で患者に戻しますが、ゾルゲンスマはAAVというウィルスベクターに遺伝子を組み込んで患者の体に投与します。下の資料が詳しいですが、in vivo遺伝子治療とex vivo vivo遺伝子治療と区別する方法もあるようです。

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http://www.nihs.go.jp/oshirasejoho/symposium/documents/H27_suraido_3.pdf

(追記:in vivoではプラスミドベクターを利用したアンジェスのコラテジェンが19年中に承認・発売されていますね) 

 

遺伝子治療製品での主な論点は次のようになるかと思います。

①価値の担保・コミュニケーション

USでは210万ドルという価格が言われていますが、前の記事でも述べたICERという機関が費用対効果分析を実施、Cost-effectiveであるというレポートを出しています。

icer-review.org

 

確かに乳幼児のころに遺伝子疾患を治療できた場合、臨床的なベネフィットだけでなく経済的なベネフィットは疾患が重篤であればあるほど高いものとなると思います。そういった点を適切に評価して、コミュニケーションできるかというのは重要なポイントになるかと思います。 

 

②長期の効果・安全性の確立

一方で、遺伝子治療の長期的な影響は(時期が立っていないので当たり前ですが)確立されていないという理解です。5年・10年・それ以上と見たときに再発等はないのか、副作用等は起きないのか、また世代を超えた影響はないのか、といった点は注意が必要です。結果によっては①の経済性の評価が根本から変わりうるかもしれません。この点は製薬会社はもちろん規制側と協働してレジストリーの整備等が必要になってくると考えられます。また以前の記事でも述べたOutcome based pricingといった新しい価格設定・償還の仕組みを日本も導入してもよいのではないかと思います。

 

③患者にとってのFairなアクセス

バイオロジカルな面と経済的な面から見たアクセスの担保は重要です。例えば上記のAAVというベクターに抗体がある患者の場合、効果は発揮されないという理解です。そういった治療における諸条件を迅速に確認・患者にコミュニケーションできるような体制が必要でしょう。ここでのコミュニケーションは医療従事者ー>患者ですので、医療従事者への適切な教育も必要です。

日本は高額療養費制度があるのでいくら薬価が高くても、一定以上の負担はかからないので経済的なアクセスはそこまで論点にはならないかもしれません。

 

サプライチェーン医療機関含む)の整備

上記でいうin vivo技術の場合と ex vivo技術の場合で異なるかもしれませんが、特に後者では医療機関でも治療薬を製造するプロセスに組み込まれるという理解です。その際のクオリティを担保する設備・人への投資は重要です。疾患の特性や患者数等の諸条件にもよりますが、製薬会社は既存の流通だけではなく、この辺りの医療機関側の整備に協力するというのは一つの方策になるかもしれません。