製薬企業における1薬剤あたりのR&Dコストは100億円以上

だいぶ前にこんな記事をかいたのですが、ワクチンも治療法もプレクリニカルから含めると数百あります。

whatishealth.hatenablog.com

このうち目が出るのはおそらく数個~数十個しかないと考えられます。

例えばロシュのアクテムラは7月にはPIIIでエンドポイントを達成することができませんでした。もちろんこれだけで、有効でないということにはなりませんが、この臨床試験で有効性を示せないというリスクが製薬・医療機器には常にまとわりつきます。

www.pharmaceutical-business-review.com

 

研究開発に必要なコストの大きさとこの不確実性の高さは高薬価の理由にも挙げられています。失敗する薬剤も多いので、製品化された薬剤にはこれらの失敗したプロジェクトのコストも掛かってきます。また製薬の研究開発は10数年近くかかるのも多いので、割引率的な考え方も重要になってくるとは思います。

 

臨床試験の成功率

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

DiMasi et al. (2016)では1995年から2007年までのNME(New Molecular Entity)の臨床試験について、タフツ大学が持つデータベースをもとに成功率を推計しています。そのデータベースは商用のものとPublic Information(ClinicalTrial.gov)を参照しているようです。

 

その結果によると、PIではおよそ60%、PIIでは約35%、PIIIでは約60%、申請時には約90%という推定値を出しています。ということは、PI~申請までで約10%、プレクリフェーズも考えると、成功率は数%以下となります。

 

〇1薬剤にかかるR&Dコスト

同じ研究によるとR&Dコストは、約2.5~3billion USD (2013 USD)ということで、日本円にして1薬剤あたり2500億円から3000億円あたりと推定しています(10.5%の割引率を使用しており、割引率を使わないと1.4billion USD)。

 

より最近の研究もあります。

jamanetwork.com

こちらは2009年から2018年のデータを使っており、おそらく割引率の考えを適用していませんが、中央値で約1billion USD、平均で1.3billion USDとほぼ同じ結果が出ています。この研究は大まかな疾患領域ごとの推定も行っており、ご興味ある方はぜひリンクからアクセスしてみてください。悪性腫瘍が著しく高くなっていますが、業界の肌感覚とあっているかは興味があるところ。モニタリングよりも患者のリクルーティングが大変なんでしょうか?

 

 

〇企業ごとのR&Dコストの差

www.forbes.com

とはいっても企業別にみると、R&Dコストには大きな差があります。大企業だからEconomy of scaleが効くはずですが、失敗するリスクは大企業だからといって小さくなるわけではないのでしょう。またスタートアップではパートナーシップを結んだりライセンスアウトすることで低コストに抑えている側面もあるかもしれません。

 

製薬の中には、研究(Rの部分)や開発(Dの部分)、製造(Mの部分)をアウトソーシングする会社が多いですが、このR&Dの高コスト構造があるのだと思います。

CDMO事業の広がりはCMICの方が解説しているこの記事がわかりやすいですね。電子機器と同じことが起こっているわけです。

project.nikkeibp.co.jp

 

ということで2021年一発目は、製薬のR&Dに関するメモでした。