アルツハイマー薬騒動のまとめ@アメリカ

アメリカ横断引っ越しの続きを書く予定でしたが、アルツハイマー薬のAduhelm (Aducanumab)の話題が業界内外問わずヒートアップしているので、あくまで現時点でのまとめメモ。

 

アメリカでは今次の2点が問題としてニュースとなっています。

 

FDAの認可は正しい判断だったか?

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FDAの専門家の間で大きく判断がわかれたAducanumab。主に次の3つの要因がある様です。元のJAMAの記事(https://jamanetwork.com/journals/jama/article-abstract/2778191)は読めていないのですが、上の記事からの抜粋です。

①-A:Texas sharpshooter fallacy
→効果があるというデータは、Post hoc analysisでデータをいじくりまわして出た偶然の産物でないの、という批判です。MPHで環境疫学を習っていた時にもこの言葉を知ったのですが、仮説を立ててからデータ解析をするのではなく、データをいじくりながら発見された推論(Post hoc analysis)は誤謬を招くというものです。

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①-B:臨床試験での食い違い
そもそも、実施された2つの臨床試験では相反する結果が出たことも、科学的妥当性に疑問をつける要因となっています。

①-C:副作用のリスク
→Amyloid-related imaging abnormalities (ARIA) というリスクもあることが、リスクベネフィットの観点から、疑問が付いているようです。

 

もともと2020年の11月時点でのアドバイザリーコミッティーでも、否定的な見解が出されていました。にも拘わらず、FDAの認可が下りたことで、一部の専門家からの批判につながっています。

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科学的な評価もさることながらアドバイザリーコミッティーの判断も含めたFDAの認可プロセスに問題がなかったか、引き続き議論を呼びそうです。

 

2人のアドバイザーが辞任したうえ、FDAのInterim DirectorのWoodcock氏の辞任論も出てきています。

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②高薬価は正当か?

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年間で56,000ドル(約600万円)に達しうる薬価をつけることに、FDA認可では支持をしていた患者団体のThe Alzheimer’s Associationが猛烈に批判をしています(この団体にはバイオジェン・エーザイ両社で5000万円以上の寄付をしていたそうで)。

注①)アメリカでは公的薬価というのは存在せず、製薬会社が基本的には自由に値付けができます。

注②)標準体重の患者に対する1IV(静脈注射)が4,312ドルで、患者は月1回IVが必要とのこと。これを12掛けしても56,000にはならないので、おそらくDoctor fee等も入っていると思われます。なお、FDAの認可時にはTreatment duration(投与期間)が設定されなかったことが、年間コストの計算につながっているようです。

 

独立研究機関のICERは、年間で8300ドル(約90万円弱)という、ベンチマークともなる医療経済分析レポートを出していたこともあって、予想を大幅に上回る薬価となりました。もともとアメリカにおける高薬価は、トランプ政権でもターゲットとなっていたように政治化しやすい話題であり、このAduhelmもDCの政治家も交えて「正当な薬価とは何か・どのように値付けされるか?」という議論を加速させると思われます。

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日本では米国の価格が外国平均価格調整から外れているので、現時点では影響は大きくないですが、英国・EU諸国での価格は注目ですし(おそらく英国NICEの評価も厳しめとなるはず)、日本でも導入が進む費用対効果分析の対象品目になるのは間違いないでしょう。ただエビデンス・データに対する不十分性が出ている中で、Multiple Decision Criteria Analysisを進めているNICEでの評価は、ICERの結果とともに米国外での価格を決める重要なベンチマークになりそうです。