医療機器から考える各種HEOR研究のProsCons

いつのまにか医療機器業界に携わって6年がたっている。

 

もともとは研究に片足つこっんだあとに、製薬業界に少しお世話になり、アメリカに来てフラフラしていたら、ご縁があり医療機器業界にお世話になっているという状況なので、本当に偶然の産物も多いのだが、にもかかわらず医療機器業界のことを丁寧に教えてくれた今までの上司や諸先輩方や同僚には感謝しかない。

 

医療機器業界でのアクセスやHEORは製薬とは一味違った面白さがある。そもそもニーズのありなしからはじまり(例えば日本ではHTAにひっかかることが少ない)、求められるスピード感の違いだったり、いろいろなものが無い中で(そもそもRCTが無いとか笑)、いかに工夫してエビデンス創出をするかなど、ワクワク(冷や汗をかきながら)することがたくさんあふれている。

 

せっかくなので、そんな医療機器の視点からいくつかのHEORの研究手法のProsCosを振り返ってみたいと思う。

 

① 前向き試験(RCT/Non-RCT)

  • Pros: 前向き試験の一番いいところは取りたいデータを自由にとってこれるところ。例えば臨床的なエンドポイントはもちろんのこと、カーブボール的な医療現場での効率性みたいな経済性により関連するデータを取ることができる。もちろんRCTをできた日には最高グレードのエビデンスが手に入る。

  • Cons: めちゃくちゃお金と時間がかかる。プロトコルとか倫理審査はまだいいほうで、医師や医療機関との契約といった研究スタート前の事務処理に悩まされ、スタートしてからはデータ収集のオペレーション管理に精神を削られる。

    薬事承認で必要となる製薬企業と比べてそもそもの必要性が薄く、HEORのためだけにやるのか、、、というのは研究の証明できることと、ビジネスニーズとの関係次第。もちろんRCTでなくて前後比較とかSingle Armとかもも選択肢。

    サイエンス的には、医療機器特有のLearning Curve(学習曲線)問題もある。導入初期と習熟後の成績をどう評価するか、そのうえでいつデータをとるべきなのか(ローンチのタイミングなのかあえて1年まつのか、など)は、論点の一つ。

② RWE/DB研究

  • Pros: 実世界でのデータをとれるというのはやはり重要。そもそもRCTが薬事承認で必ずしも必要とされない医療機器において、Long Termだったり、自由に比較群を選ぶことができるのは、ありがたい。前向き研究よりは段違いに費用も少なくて済むので、失敗した際のリスクマネジメントの観点からもGood。

  • Cons: そもそも自分たちの「医療機器」を追跡できるかは、その医療機器次第。カテゴリーレベル/手技レベルで保険請求コードにも紐づけられていることが多い(日本でもアメリカでも)ので、どう区別するんだという話はある。電カルと紐づけられていたら場合によっては、、、ということもあるが、そこは電カル、Missing Dataの可能性も含めて未知数。あとエンドポイント的にもすべての検査値とかが網羅されているかは、データソース次第。

③ システマティックレビュー・メタアナリシス

  • Pros: 短期間でそこそこまとまったデータを出せるというのは強み。ベンダーに頼むのもそこまで高くはない(もちろん目的や量によるが)。Disease Burdenとか、ある程度ローンチから時間がたった製品のバリューアップにつなげられる。

  • Cons: ライフサイクルが長い製品でないと、システマティックレビューするころには新しいのをローンチするということで、あまり価値がなかったりする。このあたりを解消するのが、ターゲットレビューだと思う。

④ 経済性モデル(価値の可視化)

  • Pros: 「手技時間の短縮(=人件費減)」「合併症減少(=入院期間短縮)」といった、病院経営視点での経済価値を組み込むことができるので、医療機器との相性は実はよい(データがあれば)。

  • Cons: そもそも使うデータがないことが多い。あとこのエビデンスのメッセージを送る対象は、病院の経営層とか、診療科の偉い人とか、一般医師向けでは必ずしもない。情報を伝える側(SalesだったりAccount Manager)も、ちゃんとトレーニングしないと、言ってるほうもチンプンカンプンみたいな状況になる。

⑤コンセンサスステートメント(デルファイ法とか)

  • Pros: データが限られているローンチ初期の段階でも、比較的臨床でつかってくれたHCPをリクルートすることで、メッセージをつくることができる。プロジェクトコストも比較的安価。

  • Cons: 人がいっぱい必要になるので、契約とかコミュニケーションマネジメントに意外と時間がとられる。あと、メッセージとしては成り立つけど、信頼度が高いかどうかは、調査対象となるパネルの設計次第。

 

こんなところだろうか。いくつかユースケースも今後拾って紹介していきたいと思う。あとこれを書いた後に、レジストリ研究も一つの手段としてあるのを思い出したが、ここは企業主導というよりもアカデミック主導になりがちなので、いったん脇に置いてみた。

いまさらながら実感する「意見をかえること」に抵抗感の少ないアメリカ

暮らしていると、会社だけでなく地域活動や子供の学校など、いろいろなレベルでいわゆる「組織」なるものに否が応でも組み込まれていくのは、どこでも変わらない世の常なのかもしれない。

 

そんな中、住んでいる町で、一つのホットトピックとなっているのが、学校改革。といっても内実は、児童数の減少にともなう学校区の財政悪化、そしてサービス縮小のための学校閉鎖といった割とネガティブな話。

 

アメリカでも少子化が緩やかに進んでいるうえ、チャータースクールや私立の学校、ホームスクーリングなど、公立学校以外のオプションを選ぶ人も増えており、公立学校区の財政は、全国的に問題になりつつあるようである。

www.youtube.com

 

このあたりのアメリカの子どもの学校に関する細かい話は別の機会にするとして、この学校閉鎖のプロセスにおいて、家族でびっくりしたことが、学校区のボードメンバーの票がわりと動いたり、superintendent(学区におけるCEO的な人、日本で対応するものがあまりない気がするので、適切な訳が思いつかないが)の提案内容がわりと変わったりと、1年の間に個人レベル・組織レベルでの方針変更が多かったことだった。

 

振り返ってみると、会社でも半年前の会議で決まったことが、そのあとの会議で別の方向にふれることとかも決してめずらしくない。

理由としては、

①「前回とは前提となる状況がちがう・変わったので、新しいデータや異なる新しい基準・観点で決定をくだそう」、もしくは

②「短期的に期待した成果がでてないので、新しいやり方。アプローチを試そう」、

というケースがおおいと思う。

 

一方で日本の中でこういうことは多くない気がするし、何なら一度決めたことをひっくりかえすことへの、「うしろめたさ」だったり「きまりわるさ」だったり、ネガティブな印象はあるのではないだろうか。

全く話はかわるが、ここ最近のFRBと日銀の金融政策などの話で、某銀行のエコノミストの方が、「FRBでは短期間に大胆に政策変更をおこなうことがゆるされるので、日銀もそれに倣ってもいいじゃないか、、、とはいっても日本ではうけいれられにくい土壌かもしれない」といったコメントをされていた記憶があるが、この「意見を変える」ということに対して、けっこう日本とアメリカの精神的な差が大きいと思う。

そういえばこんな話どこかであったな、、、と思っていると、よく考えたら40年前の本の話じゃないか!と思い出した。かの野中郁次郎たちが書いた「失敗の本質」における日本軍と米軍の分析の話。以下は記憶をたどりつつ、AIにまとめさせた話なのだが、二つのポイントが述べられていたようだ。

失敗の本質: 日本軍の組織論的研究 | 戸部 良一, 寺本 義也, 鎌田 伸一, 杉之尾 孝生, 村井 友秀, 野中 郁次郎 |本 | 通販 | Amazon

学習スタイルの違い

日本陸軍は、前提や目的、既存のルール(例:「白兵突撃や精鋭の精神力で勝つ」というドクトリン)に固執する。状況が変わっても、「どうやってそのルールをさらに磨き上げるか」という手法の微修正(練度を高める、より我慢する等)に終始して、前提そのものを否定・変更することに強い抵抗感があった(シングルループ学習)。

 

いっぽうのアメリカ軍では、状況が変わったり失敗したりした際、「そもそも自分たちの目標や戦術の前提(ルール・枠組み)自体が間違っているのではないか?」と問い直す。例えば、零戦の機動性に勝てないと分かると、個人の飛行技術を高めるのではなく「2機1組で挟み撃ちにする(サッチウィーブ戦術)」といったゲームのルール自体を書き換える変更を行った(ダブルループ学習)。

 

  1.  

「短期的な過剰適応」と「柔軟な自己革新(アンラーニング)」の違い

日本軍は一度成功した戦略(日露戦争以来の決戦思想や夜襲など)に過剰適応してしまい、成功体験を捨てること(学習棄却=アンラーニング)ができなかった。一方で、アメリカ軍は、実験とデータを重視するプラグマティズムに基づき、「現実の成果が出ないやり方は、どれだけ過去に成果を出していても捨てる」という徹底した割り切りがあった。

ということで、なるほどまさにこのことだったのか、と最近腹落ちしたのだった。

 

ではこんな方針の変更に、アメリカ人が納得しているかというと、そこはちがっていて、みんな不満があったりパブリックコメントの機会で反論したり、とまったく納得はしていない。むしろそんなところが、組織への不信感だったり、良くも悪くも強い自立心につながっているような気がする。

RAPID Coverage Pathwayはアメリカでの新しいアクセスモデルになるのか

今年の4月に案として発表されたRAPID Coverage Pathway(Regulatory Alignment for Predictable and Immediate Device Coverage Pathway)という制度案が、8月からパブコメ期間に入っている。

 

www.fda.gov

 

この制度の狙いは、FDAとCMSがIDE試験(FDAの薬事承認のための臨床試験)のコンサルテーションに一緒に参加することで、従来から問題となっていた「薬事承認がとれても保険償還がされない」というハードルを無くそうとするところにある。

 

1. 対象となる医療機器

  • 機器の種別・分類:

    • FDAのBreakthrough指定を受けていること
    • TAP(Total Product Life Cycle Advisory Program)に参加中で、将来De Novo申請を予定している「Class II」もしくは、Pre Market Authorizationが必要となる「Class III」に該当すること

  • IDE Pre-submission(治験用機器の申請)段階にあること。すでにIDE試験が進行中の機器や、市場承認を取得済みの機器は対象外。
  • 臨床試験の要件:

    • メディケア受給者を組み入れる計画であること。

    • FDAが適当と認め、かつ「メディケア受給者群での健康アウトカム改善」を証明できるとCMSが確認したアウトカムを評価すること。

  • 償還・制度上の要件:

    • メディケアBenefit Categoryに該当すること。

    • 既存の全国保険適用決定(NCD)の対象とならないこと。

    • 承認された場合、メディケアへ個別請求(Separately payable)が可能な機器であること。

    • 法律や規制による保険適用除外対象でないこと。
      (謎の話のように思えるが、肥満の薬のように法律で制限されている例があるため、そういったものを指している)

  • 体外診断用医薬品(IVD、体外診断用検査等)は対象外。

2. NCD(全国保険適用決定)の審査手順とスケジュール

IDE試験完了後、メーカーはNCD(National Coverage Determination)の申請書を提出し、FDAの市場承認を目指します。

  • 開始タイミング: IDE試験でアウトカムの改善が示された場合、FDAの市場承認と同日にCMSがトラッキングシートおよびNCD案(Proposed NCD)を公開します。

  • パブリックコメント: NCD案の公開後、30日間のパブリックコメント期間が設けられます。

  • 最終決定(Final NCD)の目標期間:

    • Class II 機器: FDA市場承認から約60日以内

    • Class III 機器: FDA市場承認から約90日以内

3. エビデンス収集・創出(Evidence Development)

IDE試験で示された有効性と製品のリスクレベルに応じて、追加のエビデンス収集要件(CED:Coverage with Evidence Development)が科されるかが決定される。 CEDが必要と予想される場合、CMSはFDA市場承認の前にFDAおよびメーカーと協議し、CED要件をFDAの承認後調査(Post-approval study)と整合・共通化させます。

4. 保険適用の期間(Duration of Coverage)

  • 基本方針: RAPID NCDは、再検討(Reconsideration)が行われるまで有効です。

  • CED付き保険適用の扱い: CEDに基づく保険適用は無期限に継続するものではなく、患者や臨床医の意思決定、および最終的な保険適用判断に必要なエビデンスを迅速に収集するため、期限付き(Time-limited)として運用される。ここは今の既存のCEDの運用と変わらないところ。

 

個人的に気になったのは「メディケアへ個別請求(Separately payable)が可能な機器であること。」というところで、通常のCPT(手技料)に包括されるものは、対象でなく、Durable Medical Equipment(在宅で使える機器: CGM、インスリンポンプなど)か、外来のパススルー機器( 外来的手技で使われる高額な最新埋め込み機器やカテーテルとか)、Prosthetic Devices(人工内耳だったり)すると思うので、結構注意が必要だと思う。

よくわからないのが、専用のCPTコードができることもある遠隔モニタリングやSaMDのような機器で、これらのコードはものによっては機器で行うサービス(データ解析とかその読み取りとか)にコードが表現され、厳密には個別請求しているわけではないので、対象になるのかいまいち不明なのである。

日本の保険診療の将来は現在のイギリスに近づくのかもしれないしれない

さて8月初旬にとある製薬会社(おそらくグローバル本社の人間)が日本の薬価制度に怒ったようである。

iyakutsushinsha.com

 

自分としては市場拡大再算定という昔の名前の方が馴染み深いのだが、持続可能性特例価格調整という、要は売れ過ぎたお薬の価格は下げますよ!、という企業側から見たらたまったもんではない制度である、、、が、実は需要と供給のバランスで価格が決まるというシンプルな市場を考えると、国民皆保険制度がある日本において需要をコントロールしているのはある意味政府であるので、まあ一定の価格決定権は確かにあるのである。もちろん製薬会社も供給者として価格を決定する権利を要するので、例えば日本市場に薬を供給しないという選択はもちろんあって然るべしだとは思う。

 

ちなみに今回のイーライリリーは、2016年に乾癬治療薬のトルツで外国平均価格調整で価格が高くなった時に留意事項(要は処方できる患者=マーケットサイズを制限された)をつけられて、薬価申請の収載取下げに踏み込んだ会社であるので、今回の話がどう今後に跳ねるかも個人的には注目している。

answers.and-pro.jp

 

この辺りの日本の特殊な価格制度が実際にどんな影響を与えうるかは、別に考えてみたいが、個人的な見解としては、もし政府側が一定の価格制限を課しつつアクセスも確保したいという話になってくると、企業側としては、先進療養や選択療養の拡大をしていくというのが、一つの落とし所になると思っている。なぜなら、この制度において政府に加えて患者の需要を考慮した価格設定を行うことになるからだ。

 

白内障の治療で使う眼内レンズが一つの例で、単焦点眼内レンズというある意味標準治療とされている眼内レンズは保険診療でカバーされ、多焦点レンズというレンズだと単焦点レンズとの価格差分は患者が自費で払うという制度である。要は保険診療と自由診療が組み合わさる混合診療の特例部分である。患者からすると自己負担を増やしてまで高機能のレンズをインプラントしてもらうのかという点を考えることになるので、患者の需要が考慮される。もちろん実際には、医療者を通じて機能と価格のバランスを考えることになるため、患者自身のヘルスリテラシーもさることながら医療者も含めたコミュニケーションが介在することや、ウィンドウショッピングとは異なりいくつものクリニックを患者が見て回るということができないので、「情報の非対称性」の課題がついて回ると思う。

 

少し視点は変わるのだが、このいわゆる混合診療のような話が進んでいるのがイギリスのNHSではないかと思う。イギリスで通常の医療サービスは国民であれば無料で受けられるのだが、いわゆるGP制度をとっており、専門医へのリファラル(紹介)に時間がかかる上に順番待ちも発生するため、フラストレーションが存在することは有名である。

 

この隙間を埋めるように民間医療保険がある。日本だと民間医療保険といえば、いわゆるがん治療のような先進医療のものだったり入院治療で一定の金額がかかったときに金額を補填するといった純粋なお金のサービスであるが、イギリスの場合は、民間医療保険を使ったプライベートの医療サービスを受けることで、NHSの順番待ちをスキップできるという医療アクセス面での利点が存在する。

 

そしてプライベートの医療サービスというと私立病院のようなNHSの枠外の(ある意味ブラックジャック的な)イメージが浮かぶかもしれないが、実はNHSに所属する病院自体がこの民間医療保険に対応する部門を持ちサービスを提供しているのである。

 

これはロンドンにあるNHSトラストのPrivatePatientCareのリンク。インペリアルカレッジとかUCLのNHSトラストも似たようなHPがある。

www.guysandstthomas.nhs.uk

 

一緒に仕事をさせていただいたことのあるイギリスのお医者さん(大学病院)は、通常の勤務に加えて夜にこういったプライベートケアでも週に1−2回勤務をしていた。

 

こういうサービスが出てくると、付随して、分割払いなどの患者向けの新しい支払ソリューションのような、新しいサービスも出てくるだろう。ただもちろんこの場合に重要になるのは、何を標準として、何を選択療養の範囲にするのか、患者のアクセスとのバランスであるのは言うまでもない。勝手な想像だが、がん治療のような標準治療が複雑なレジメンであったりする場合や、希少疾患も含めたより致命的な疾患には馴染まないとは思う。しかし高血圧や2型糖尿病のような生活習慣病の領域で、新薬や新規デバイスにおいて、治療効果が標準治療と同等であるものの、例えばそこ以外でベネフィットがあるようなもの(と企業が提案するもの)は、通常の保険に追加する形で価格を決められるようにして、あとは実際の需要と供給で価格が決まるようにすると言うのは一つの手なのではないだろうか。

 

自分の生まれ育った国と異なる国で仕事を探すということ

アメリカではいわゆる新学期シーズンが近づいてきており、2026年も4分の3が過ぎ去ろうとしている。ふと振り返ると、ドキドキしながら初めてアメリカの大地に立ったあの日から10年弱が過ぎようとしていることにびっくりする。

 

時々学生の方からコーヒーチャットなどを受けることもあるのだが、いかんせん当時の記憶は薄れてきている上、何年もたつと学校などの状況も大きく変わってしまうのでなかなかお役に立てないことの方が多いのだが、よく聞かれるトピックの一つである異国で仕事を探すということについて自分なりに考えをまとめてみた。

 

 

国・業界・職種

まず大前提として、誰が言い始めたのかわからないが、国・業界・職種という3項目を考えたとき、一つでも変えると就職の難易度があがるというのは、納得がいくと思う。日本の中で仕事をさがそうとしても、業界や職種がまったく異なるところに転職しようとするというのは大きなハードルがあると思う。

 

そんななかで、異国にくるということは最初からハードルが上がっているわけである。ということを踏まえるとシンプルに仕事が見つかる確率が一番上げるには、日本でいたのと同じ業界・職種を目指すということになる。

もちろん異国にきて違う業界・業種を目指すことができないわけではない。ただ難易度は確実に上がり、対策することが増えるだけでなく、人との出会いのような運にコントロールされる割合も大きくなると思っている。

 

もちろんケースバイケースではあるので、業界・職種によっては日本とその国での規制や慣習が異なり、実質的に別の業界を目指すのと全く変わらない、、、というようなこともあるかもしれない。

 

自己分析

というわけで正解などのない世界に踏み入れることになり、変数もとても増える中で頼りになるのが自己分析だと思う。ただここを闇雲に自己分析しても意味がなく、あくまで現実的な戦略に落とし込む必要があり、その上ではいろいろなビジネスのフレームワークが使えると思う。

 

例えば、好きな本にP&GのLafleyとモニターカンパニーのMartinらが書いたPlaying to Winという本があるのだが、その中で紹介されるWhere to play&How to winは分かりやすいと思う。

rogerlmartin.com

 

先ほどの話にもつながるが、Where to play(どこの業界・職種で戦うか)、How to win(どうやって自分を売り込むか)と仕事探しに読み替えられる。さらに彼らの本ではWhat is our winning aspiration?やCapabilityやSystemの話もしており、ありたい姿はなにか?、自分の能力やあるいは教育・スキル向上へのアクセスがあるか?、といった論点と読み解くことができる。

 

というわけで、思い付きで有名なフレームワークを読み替えてみたら下のような図ができた。3Cとか4Pは結構うまくはまっている気がする。5F(ファイブフォース)は企業分析的な要素と職種分析の要素がごちゃ混ぜになっているので、あまり美しくはないが。

 

こう考えるといろいろと要素があり、思考の罠にはまりそうな気もするが、異国で仕事を探すとなると、やはりAspirationのところが重要で、それをもとに業界・職種を考えて、How to winという狭義の自己分析に向かうっていうのがよいのかもしれない。

 

Howのところはこんな昔の記事もあるのでご参考まで。

whatishealth.hatenablog.com

 

アメリカの病院で使われる薬の保険償還:槍玉にあがる340Bプログラム

今アメリカの保険償還界隈(じぶんで書いていてニッチな界隈だと思う)で話題の一つが340Bプログラムとよばれる薬関連の保険償還の金額が大きく減らされそうということ。

 

www.ajmc.com

 

いろいろと聞きなれない言葉も多いと思うのですこしまとめてみた。

 

 

そもそも340Bプログラムとは何か?

340Bプログラムは、1992年に設立された制度で、メディケイド(低所得者向け公的医療保険)に参加する製薬企業に対して、ある一定の対象となる病院に対して外来用医薬品を大幅な割引価格で販売することを義務付けているもの。

対象となる病院は、例えば小児病院だったりへき地の救急医療施設だったり、連邦認定保健センターのような、社会的に弱い立場にある人々に医療サービスを提供するような病院であることが多い。

 

従来の仕組み

病院はまず割引された340B価格で医薬品を購入する。その医薬品をメディケア(高齢者・障害者向け公的医療保険)の患者に使用したあと、メディケアから医薬品代の払い戻しを受ける。

このときメディケアはOPPSと呼ばれる支払制度に基づき、一般的には平均販売価格(ASP) + 6%という価格を一律支払っていた。340Bでの購入価格は、しばしばASPを大幅に下回っていて、この差益がある意味でこういった病院の収益を支えていた。

 

例:

医薬品のASP:1,000ドル

メディケアからの支払い:1,060ドル

病院の340B購入価格:650ドル

病院の差益:410ドル

 

ところが、もちろん今のご時世のなかで緊縮財政が叫ばれる中、特にBudget Netralityと呼ばれる予算を基本的には前年度と比較してインフレ調整を除いて均衡させていく仕組みがあるメディケアにおいて、予算削減の槍玉にあげられてしまったのだ。

 

どう変更されそうになっているのか

CMSの実施した調査によると、病院の購入価格が平均してASPより約33.4%低いことが判明したため、新しい支払い率を「ASPマイナス33.4%」とCMSは今年提案した。これにより試算では2027年単年で約57億ドルの薬剤費削減額につながるとされている。メディケアパートB(外来)の自己負担額は一般的に20%なので、払い戻し額の減少は、結果として受給者の自己負担額の減少にもつながるともいわれている。

ちなみに、病院の外来で薬が保険償還されるときにはHCPCSに加えてModifierとしてJGと呼ばれるコードを、340Bの薬剤に対しては追加するので、オペレーション的には簡単ンにできてしまう。

もちろん病院からするとたまったものではなく、一部の病院だとそのマージンを無償医療や地域プログラムのために使用しているところもあるので、地域のセーフティネットのような役割を果たしている病院にとっては打撃になるし、最終的には患者側にも影響が及ぼしかねないので、注目されている。

 

アメリカの健康保険会社の過大請求事件

だいぶ昔にアメリカの健康保険の仕組みの一つとしてCoverageというトピックをとりあげた。その流れで、健康保険会社がアメリカで嫌われている理由の一つに、Prior AuthorizationやStep therapyのような、保険給付を受けにくくする仕組みがあるということを取り上げた。UnitedHealthのCEOの事件でも取り上げられた理由でもある。

whatishealth.hatenablog.com

 

しかしたまたまポッドキャストを聞いていたところ、そもそも保険会社が健康保険を購入する雇用者(つまりはその辺の会社など)に過大請求するという事件があるらしい。

 

その有名なもののひとつが、ニュージャージ州でHorizon Blue Cross Blue Shield of New Jerseyが起こした事件である。

www.politico.com

 

ただこのあたりの背景を理解するには、そもそも健康保険会社のビジネスモデルを少し理解する必要があるので、いくつかに区切って話を進めてみる。

 

 

①Full insuredに対してSelf insuredというモデル

通常のFull insuredと呼ばれるモデルでは、企業は保険会社に毎月固定の「プレミアム(保険料)」を支払い、その後の医療費請求の支払いはすべて保険会社が行う。なので、保険料以上の追加支払いは企業に発生しない。

 

しかし最近では保険料の高騰もあるので、企業や雇用者によってはこの健康保険会社への支払いを安くするために、保険会社をあくまで「TPA(サード・パーティ・アドミニストレーター)」として雇うケースがある(Self insuredモデル)。この場合、保険会社は「ネットワークを通じた医療機関との価格を交渉・設定する」・「請求の審査をする」・「実際の支払いを代行する」といった役割を担い、事務手数料を受け取る。

 

しかし最終的な医療費を支払うプールは雇用者側が管理することになる。めちゃくちゃ健康な従業員しかいなければ、こういった仕組みにしたほうが、雇用者にとっての負担は安くなる可能性がある。

 

②ニュージャージー州で起こったこと

このSelf insuredモデルを使っていた州の公務員向け健康保険プログラムでは、次のような流れとなる。

1.病院が診療を行う。

2.病院がHorizonに請求書を送る。

3.Horizonはその請求を精査し、契約上の価格を適用する。

4.Horizonが、州の資金を使って病院へ支払う。州はHorizonに対し、処理された費用(および事務手数料)を後から精算する。

 

問題が起こったのはこの3番目。「Lesser of」条項とよばれる請求金額に関する契約条項があった。医療提供者からの請求額と、保険会社が交渉済みのレート(割引後の価格)のうち、「どちらか低い方」を支払うというという条項だった。しかし、実際にはHorizonは常に高い方の価格を州に請求し(過大請求)を行っていたと言われている。

 

③過大請求以上の問題点

この事件は、健康保険プログラムを監督する州当局の幹部だったChritin Deaconらの内部告発が発端となったが、まずそもそもこの内部告発が行われるまで、状況を把握できている人間がいないという、雇用者側の問題意識や機能が欠如しているという点だといわれている。

 

複雑怪奇な医療システムにそれを管理する側のはずの雇用者が苦しんでいる(あるいは対応できていない)。そりゃアメリカの医療費も高騰するわけである。この前日本では社会保険診療報酬支払基金の不払いの話もでているが、すくなくとも日本ではこの価格設定自体は公的レートで決まっているのでこのような過大請求はおきないというのは一つ良いところではあると思う。

www.ben54.jp