組織のフラット化という名のもとレイオフされるミドルマネジメント

直近の見ているニュースと肌感覚を合わせると、アメリカは景気はそこまで悪くなっているとは思わないが、不確実性が高まる中でなんとなくイヤな空気が漂っているような、なんとも言えない状態である気がする。

 

例えば、自分の会社は特に大きな変化はないが、地元のニュースを読んでいると、計画中だった某ビックテックのキャンパスの建設計画の中止・縮小報道が出たり、某地元企業でレイオフが発表されたり(この企業は有名なガバメントコントラクターなのでDODGEの影響だろうが)している。

 

そんな中で最近の流行のように思えるのが、組織の「フラット化」という名のもとのミドルマネジメントポジションの削減。ここでいうミドルマネジメントというのは、個人的な感覚ではVicePresidentやSeniorDirectorなど複数のDirectorやManagerをレポートラインにもつ、日本で言う部長クラス?のポジションだと感じている。前の会社にいた最後の1−2年ではこのあたりのポジションが消えたり、一つにまとめられていた。

 

www.forbes.com

 

タイトル的にはこれらの一つ下の層にいる身からすると、階層といのはある程度あってくれた方がありがたく、ワークライフバランスも良くなる傾向にあると思っている。自分のプロジェクトやそのステークホルダーとのコミュニケーションに集中でき、幅広いネットワークづくりや根回しみたいなことをやらなくて済む。

 

一方でそれらの層を目指す上では、ちゃんとしたリーダーシップというか社内・社外をうまくまとめていく力が必要なので、意識しなければいけないところ。

hbr.org

 

この記事にもあるがインパクトやビジネスに必要な変化を作り出すためのチェンジエージェントという役割が求められているというのは、いうのは容易いが、要は経営のアジェンダや方向性を熟知しつつ、自分の業界・ファンクションのスキルは引き続き習熟し、AIのような全てのファンクションに影響する世の潮流を理解しつつ、チームをまとめて成果を出す、、、というなんやその万能超人はという気がする。

 

前職は会社内のステークホルダーとのプロジェクトが多かったが、今の自分のロールでいうと外部の協力者(コンサルとかKOLとか)とのプロジェクト推進がメインなので、いい意味でスイッチできたのかもしれないかと思いつつ、求められることの多さに一瞬辟易とする今日このごろ。

 

朝5時の空港。誰もいなくて快適だが眠すぎる。

 

 

 

アメリカの医療保険における"Coveage"の話

下の記事で書いた通り複雑怪奇なアメリカの医療保険の償還の仕組みを紐解くにはCoding・Coverage・Paymentという3要素を理解する必要がある。

whatishealth.hatenablog.com

 

こちらでCodingとPaymentの話はしたので、残りの一つのCoverageの話をしてみたいと思う。

whatishealth.hatenablog.com

 

自分の言葉で言うとCoverageとは「保険償還の対象となる患者基準」のこと。日本と比較した場合のアメリカの医療保険の特徴は、FDAの承認が保険会社の給付とイコールでないこと。FDAは「Safe & Effective」という観点から審査するのに対して、保険者は「Medically Necessary & Reasonable」という観点から保険給付を決定する。

 

この言葉は実は2020年になって初めてCMSが言葉の意味を定義しており、掘り下げると面白そうなのだが、マニアックな話になるので今回は割愛。

 

このCoverageは次の二つの点から分析する必要がある。

①Coverage Policy(カバレッジを明文化したもの)があるかないか

例えばCMSだとメディケアにおいてNCDやLCDというCoverage Policyを独自のエビデンスレビューを経て定めている。

www.cms.gov

民間保険会社も同様のプロセスを持つ、あるいはこのInterQualのようなガイドラインを使用している。

 

Coverage Policyがないと保険給付の不確実性が高まる。というのも明文化された基準がないので、究極保険会社が「これは給付しませんよ」といったら、そこで終わりになってしまう。そんな製品や治療法は病院や医者は使いたくないので、市場に浸透しない(保険給付されなかったら、患者に100%費用請求することになるので、基本的に彼らの収益を圧迫する)。

 

②Coverage Policyがあったときにどのような患者基準になっているか

こちらはわかりやすいと思うが、薬事承認より狭い基準だとすると、使用患者数が大幅に減ることになる。なお患者基準のだけでなくPrior AuthorizationとStep Therapyといったプロセスを課すことによるUtilization Managementが行われることも多い。

 

簡単にいうと、その治療法を使う場合には追加の検査や書類の提出(Prior Authorization)が必要になったり、事前に別の治療法をして効果が認められなかった場合にのみ給付される(Step Therapy)というシステム。

 

時間がかかることもさることながら、民間保険会社が恣意的に保険給付を制限して利益追求の手段にしてるのでは、、、という疑惑も出てきたりと、比較的頻繁に話題になる。

www.aha.org

特にUnitedHealthのCEOが射殺された事件の後はUnitedHealthのPriorAuthorizationの話などがよくニュースで取り上げられた。保険請求詐欺も多いので、医療保険側がこういった手段をとる正当な理由もあるはあるので難しい問題。

 

製造業者の立場に戻ってみると、いかにこのCoverageを最大化していくか、そのためのエビデンスやアドボカシー活動、場合によっては(保険者へのBudget Impactを考慮した)価格戦略なども考慮することになる。

 

 

自分が今、アメリカに留学するとしたら、2−3年後のタイミングと悩むだろうという話

トランプ政権になって早1ヶ月が過ぎ、自分の身の回りレベルではまだ大きな変化はない。強いていうならLAに出張すると、デモを目にする機会が増えたことか(もちろん反トランプ)。

 

政策の是非はさておき、ヘルスケア界隈にいるものとして大きなニュースの一つは間違いなくNIH(National Institutes Health)のファンドカットの影響。金曜日にはいったん差止が延長された。

 

NIHファンディングといえば日本でいう科研費のヘルスケア専門バージョンのようなものだが、規模が48億ドル(今や円換算だと6000億円)と科研費の2000億ちょっとの3倍近く。こちらの記事によると2023年には41万の雇用を支えていた。

www.americanprogress.org

 

主に大学などに支払われている間接費は、これまでは研究費の25-70%とかなり研究プロジェクトに応じて柔軟に配布されていたのが一律15%キャップになるということで、大学やサポートスタッフに大きな影響を与えると想定されている。

https://thehill.com/opinion/healthcare/5157312-trump-administration-slashing-nih-funding/

 

ペンシルベニア大学ではすでに入学者数を縮小しようとする動きもあるようで、周りで聞いている限りは、大学の研究留学で渡航予定だった人が、受け入れ先から延期を求められるケースもあるようで、ヘルスケア・バイオメディカル関連の研究を志す人たちにとって厳しい環境になりつつある。

www.thedp.com

 

政府系機関の雇用カットも続く中、こういった政府予算カットの動きによって、政府・アカデミア人材の一部が民間に流れ込んでいくと思われるが、民間のジョブマーケットは堅調と伝えられているが、影響が出てくるのはこれからか。

https://www.reuters.com/world/us/us-weekly-jobless-claims-rise-slightly-2025-02-20/

 

ここまでの話は主に研究留学がメインの影響だろうが、これが民間ジョブマーケット全体にインパクトを与えるとするとMBAあたりの求人にも影響はあるかもしれない。なんならすでにMBAのジョブレポートも数年前と比べるとあまり振るわない状況にはなっている(もちろんここでは卒業3ヶ月後の雇用状況なので、MBA生がある程度選り好みをしているという可能性はあるとは思うが、少なくとも数年前ほどいい環境ではなくなっているのは間違いない。ちなみにAI云々の影響はまだ今の時点でMBAリクルーティングに影響を与えてないのではないかと肌感覚では思う。)。

m.economictimes.com

 

どんな留学形態であってもベストは自分の卒業・修了タイミングで好景気であるというなので、今から2−4年留学するとなると2年間の修士だとかなりリスキー。3−4年の博士レベルだともしかしたら好景気に戻る可能性はあるが、むしろ次の大統領選の方向性によっては更なる混乱もあるので難しいところか。

 

今来る場合には円安と合わせてジョブへの不確実な環境への覚悟が必要になると思いつつ、所詮雇われサラリーマンの自分も雇用の保障のないアメリカでは同じ状況なので、「なるようになる」精神が重要だと思う今日この頃。

アメリカに聞いて気が付いたよく使われている英単語・熟語⑤

①Orchastrate

そのまま「指揮する」。複雑なプロジェクトとかステークホルダーとか。レジュメでよくみる単語。

②Move the needle

変化を起こす。インパクトを与える。

③Temper egos

エゴとかプライドが出ないように自制する、、、的な意味。

④Step on someone's toe

他の人の領域に踏み込む的な。よく他の人の仕事に口出す時に使う。

⑤Right off the bud

すぐに、一番最初に。

⑥Pain in the ass/bud

めちゃくちゃうざい。

⑦Massage contents

その意味の通り、よく中身を練る、、的な意味。Massage the messageとか色々使い方あり。

 

 

 

アメリカで転職回数の話(非IT業界・大企業)

2024年は初めてアメリカで転職を経験した激動の年だった。日本と合わせてついに3社目に突入している。

whatishealth.hatenablog.com

 

この記事によるとアメリカ人は平均12回転職するようなので、まだまだ平均未満。ジョブ型雇用のなせる技だが、ファンクションが一緒であれば、違う会社に行ってもやってることは大体一緒なので即戦略として働けることが多い。

www.zippia.com

 

一方でUSでもJob Hopperという言葉があり、こんなHBRの記事があるように、必ずしも好意的にとらえられる(いた)わけではない。

hbr.org

実際に前職や今の会社でもこんなことがあった。

・とあるディレクターが1年で辞めたことを上司と話していたら、上司からは「まあ彼は一つのところで長く留まれないタイプの人間なんだよね。まあそういうやつと働くのは難しいよね。」とコメントをいただく。

・同僚とインタビュワーに回った際、同僚はかなりジョブホッパーを敬遠していて、それを理由にその候補者の採用に反対した。

・会社のある一定のポジション(Director~VP、日本で言う課長・部長クラス?)では同じ会社で5年以上勤めて内部昇格してきた人間が肌感覚で7割以上。

 

おそらく医療関連業界の比較的大企業、50年近く歴史がある会社にいる、、、という環境が大きくバイアスをかけている気もするが、逆に言えば非IT業界のトラディショナルな大企業だと、転職回数が多いというのは注意したほうがいいかもしれない。

 

こんな言葉をよく目にかける。

If you're a job hopper, the common denominator is you.

要は転職繰り返していたら、何か悪い原因があるとしたら共通しているあなたにあるのではないか、、、というような話。もちろんアメリカなのでリストラなど日常茶飯事なので、ロジカルに転職理由を説明できれば普通問題ないのだが、それでも多すぎるとリスク要因にはなる気がする。特に1年程度で転職を繰り返している場合。

 

さらにタイトル・職位的な点から考えると、ミッドキャリアのポジションに応募する際にこのリスクが最もあてはまり、エントリー・ジュニア層や逆にCXOみたいな層はまた別な気はする。

 

ということで自分も不必要にJob Hopperに陥らないように気を付けてキャリア設計しようと思う年の瀬なのでした。

なぜアメリカの医療費はわかりにくいのか

民間医療保険最大手United HealthのCEOがNYで射殺されたことで、アメリカの医療の高額な状況や複雑さに注目が集まっている。

 

なぜ高額かという話については、色々な要因があるので一つの原因に帰着するのが難しいとも思うが個人的には、全体的に原価コスト(人件費・薬や消費財の消耗品・機器や施設などの減価償却ひっくるめて)が高い上に、自由競争という価格を自由に決定できるという構造的な要因が貢献しているように思っている。

 

ただそれ以外にも、そもそも何百もの民間・公的保険が存在すること自体がアメリカの医療費制度を複雑にしていると思うのでわかっている範囲で図解してみた。

このように数千と存在する病院(もしくは病院グループ)が、何百といる各保険者と交渉して独自のNegotiated Rateを決めることで、何万通りもの価格が生まれることになる。であるが故に、医者であっても保険会社から見ても、治療の値段がどうなるかは各個人の保険プラン、通う病院、実際に受けるサービス次第で価格が変化するため、予測がしにくいのである。

 

自分も今までBCBSとUnitedHealthの2つのプランに入っていたが、請求額は似たようなサービスでも結構違う。高齢者向けの公的保険と比べて、民間保険は1000%以上の金額が請求されているというレポートもされているくらい。

https://www.shpnc.org/what-the-health/nc-hospital-price-transparency-report

 

なんとかこの状況を改善しようと、CMSは病院のチャージマスター(病院が決めた価格リスト、つまり病院サービスの定価リスト)を公開することを2021年から義務付けているがあまり今のところ目立った恩恵は個人的にはない(勉強不足なだけな気もするが、、、)し、年々ルールもゆるくなったり履行していない病院も多いので、この状況はずっと続くだろう。

https://www.healthcaredive.com/news/hospital-price-transparency-continues-drop-patient-rights-advocate/733703/

 

しかし医療保険会社自体が利益追求に走っているという問題も間違いないけれども、そもそも医療サービスを自由競争市場の手に委ねていることが、この歪んでいる状況を生み出していると思うのは、規制ばっかりの日本から来ているからそう思うのだろうか、、、

 

とはいえ付け加えると、この自由競争市場が、医療従事者へのとても良いお給料と製薬会社や医療機器会社など医療を取り巻く業界に勤める人の良いお給料を作り出しているので、「直美」みたいな言葉がフィーチャーされる日本の医療業界と比べると、その人の立場で大きく意見は異なってくるとは思う。

 

 

 

 

槍玉に挙げられ始めたアメリカのPharmacy Benefit Managerと製薬会社会社のDirect To Consumerモデル

Pharmacy Benefit Manager略してPBMは、前のブログ記事でも書いたが、アメリカに特有の製薬会社と薬局の間でGPO(集中購買)の機能を持つ中間業者。

 

whatishealth.hatenablog.com

 

日本の公正取引委員会にあたるFTCが進めていたPBMの取引実態に関わる中間報告が7月に発表された。そこには、ある意味業界では有名な話でもあるが、なぜアメリカでは薬の価格が場所や人によって大きく違うのか、なぜある薬は保険償還がおりるのに類似薬やジェネリックは償還されないということが発生するのか、といったような医薬品の公正なアクセスを歪める原因となっている、リベートや契約上の慣行が詳らかにされている。

www.ftc.gov

PBMはどの薬をどの保険プランにおいて保険償還の対象とするか(アメリカには医療保険が民間・公的含めて無数にある)を決める権利があり、サイエンティフィックな基準で決められていればいいもののブラックボックスな部分が多く、しかも類似薬があればあるほど製薬会社にリベートの額を競わせる(類似薬はDrug Basketというグループに含まれるので製薬会社的にはいかに独自のDrug Basketにはいるか、あるいは差別化するかが重要になる)。

 

またPBMはある特定の薬局グループ(CVSとか)や医療保険会社(United Health)が保有しているのでそのグループとそれ以外のグループでは償還金額が違ったりする。

 

ついにPBMを名指しで批判する公的なレポートが出始めたと思ったら、製薬会社の方でも動きがあり、患者にダイレクトに薬を渡すDirect To Consumerモデルが出てきた(といっても保険の対象外の患者がメイン?)。とはいえDTCモデルはそれはそれでオペレーションコストが高いと思うので、PBMにはらうリベートなどを考慮した時に、どっちが彼らにとってProfitabelなのかの判断はこれからか?

www.prnewswire.com

www.npr.org

 

ちなみに業許可的には薬局業務が行えるように製薬会社自身がライセンスを申請してしているのだと推察(ちなみに各州ごとにとらなくてはいけないはず)。