グローバル組織としてのマーケットアクセス・HEOR部門
今日は独立記念日でお休み。転職して1か月が経過して、少し一息つけたところ。
マーケットアクセスやHEORをやっていると比較的ニッチだし、ビジネススクールに来るような人にとっても「???」みたいな領域なので、めったにないのだがそれでも年に5人弱ぐらいの学生やビジネススクール受験生・現役生に仕事内容を聞かれることがあるので特にグローバルマーケットアクセス・HEORという部門が何をやっているのかについてメモ。
マーケットアクセス・HEORのキャリアに興味がある人、かつグローバルに働きたい人の参考になれば幸いです。
マーケットアクセス・HEOR部門とは何か
マーケットアクセス・HEORという言葉自体、普通はとても聞きなれない言葉・ファンクションだと思う。なんなら製薬会社・医療機器会社に勤めている人でも、存在をしらない、もしくは小規模の会社だとそもそもチームが存在しないこともあると思う。
マーケットアクセスとは基本的には製品が各国で保険者から保険償還されるための必要な業務を行う。ビジネス的には二つのバリューが期待される。
①保険償還対象となる患者集団を最適化しマーケットボリュームを確保する。
②保険償還される際の償還価格を最適化し、適正な利益を確保する。
HEORとはHealth Economics and Outcome Researchの略語で医療経済・アウトカムリサーチ部門と言われたりするが、そもそもはこの保険者との交渉の中で必要な製品エビデンス戦略の立案と実際のエビデンスジェネレーションを担う。
NICEのようなHealth Technology Assessment機関が古くから設立されていたヨーロッパでは歴史が比較的長いが、アメリカでも公的・民間保険者の力が強いため注目されてきており、特に最近は会社の四半期決算説明会でもよく質問が飛んだり、一部の会社もプロアクティブにプレスリリースを発表している。
グローバル組織とは何か
そもそもなぜグローバルチームが必要になるのか?というと案外ふわっとした役割しか各部門で整理されてなかったりするように思う。
少し古い記事になるが、こちらで紹介されているフレームワークに準ずるとすると、
●ビジネス・マネジャー:
ストラテジスト+(資源配分の)設計者+調整者
であり、
●ファンクショナル・マネジャー:
(専門知識の)探索者+(ベストプラクティスの)交配者+(イノベーションの)推進者
という二つの要素をグローバルファンクションは併せ持つ必要があると個人的には思っている。
ファンクションとして、主要なマーケットの同じファンクションの意見を吸い取ったうえで、グローバルレベルでクロスファンクショナル(部門を超えて)製品戦略の合理化を行うというビジネスストラテジストとしての側面が一つ。これは特に売り上げ最大化を目指すための活動になる。
その一方で、ファンクショナルエクセレンスを追求し、グローバルで共通化できるプロセス・テンプレートは共通化してしまい、ローカルチームがローカル固有の戦略に従事できるようにサポートするという、効率化されたファンクショナルサービスをグローバルレベルで確立する。これはどちらかというとコスト最適化を目指す行動になる。
グローバル組織としてのマーケットアクセス・HEORの存在意義
といったグローバル組織の役割を考えると、個人的にはHEORはグローバル組織化する意義がわかりやすいが、マーケットアクセスは少しトリッキーのように感じている。
HEORはスキル・知識というのは国ごとにほとんど変わらない。もちろん細かいローカル特性はあるだろうが、医療経済学のアプローチ・方法論は同じであり、グローバルで共通化しやすいし、ファンクショナルエクセレンスを追求しやすい。
ところが、マーケットアクセスに関して言うと、ローカル色がとても強い。ほとんどすべての国で政府・行政との対応となるし、もちろん場合によっては各国に特有の民間保険会社との対応が必要になってくる。そうすると優秀なローカル人材(スキル・コネ・経験もろもろ)を確保することが重要であり、グローバルマーケットアクセスとしては、ファンクショナルエクセレンスの追及に限度がある。
アメリカのInflation Reduction ActやCPTコードと、日本のC申請や外国価格調整みたいな話は、やっぱり隔たりがある。
そうするとビジネスストラテジストとしての役割が重要になってくるのだが、そこは例えばグローバルマーケティングやリージョナルマーケティングの機能と重なってくるところもあり、うまくマーケティングやビジネス部門と連携できる能力・センスが問われると思う。
個人的には、どの国も財政問題が深刻化する中で、マーケットアクセス・HEORの製薬・医療機器業界の中での重要性が増していくと思っているが、一方で歴史が浅い部門がゆえのチャレンジもあり、なかなかタフでエキサイティングな領域かなと思うのが6年やってみたいまの結論でした。