認知症薬のアメリカにおける保険適応の実際ーCMSのプレスリリースとCoverage With Evidence Development

先週についにFDAの正式承認を受けたエーザイ・バイオジェンの認知症薬。色々な記事でこの正式承認によって、広く保険適応がされるとされている。

toyokeizai.net

jp.reuters.com

 

この発表の後、たまたまCMSのホームページを別件で見ていたら、ちょうどプレスリリースが出ていた。

www.cms.gov

 

こちらでもBroaderCoverageとされているが、よく読み込むともしかしたら、普通の人がイメージする保険の適応拡大とはちょっと違う。

 

というのもプレスリリースで、「To receive Medicare coverage, people will need to: 1) be enrolled in Medicare, 2) be diagnosed with mild cognitive impairment or mild Alzheimer’s disease dementia, with documented evidence of beta-amyloid plaque on the brain, and 3) have a physician who participates in a qualifying registry with an appropriate clinical team and follow-up care. Clinicians participating in the registry will only need to complete a short, easy-to-use data submission.」と書かれていたからだ。

1番目はメディケアの対象であること、2番目は診断基準の話なので特に問題無いのだが、注意すべきは太字にした3番。薬を処方されるには医者がレジストリーに参加していないといけないと書いてある。

 

このレジストリーというのは何かというと、特定の疾患を対象にしたデータベースを作る枠組みのこと。今回の場合CMSが直接構築するらしいが、果たしてこのレジストリーに参加できる医者がどれくらい出てくるのかというのは、今回の保険適応を読み解く上での注意点だと思う。

 

このレジストリーに参加する際の仕組みがまだよくわからないので、医者からみたコストがはっきりとはわからないが、よくあるのはレジストリー専用のシステム・ソフトウェアを入れたり、それに対応するインフラ(ITという意味だけではなく、それを扱ったり、データを収集する人的なリソースも含めて)が必要になってくる。この辺りのハードルが実際医者のレジストリ参加率に影響するかはポイントになると考えられる。

 

そもそもこのCMSの発表を読むと、そもそもの保険適応で使われたCoverage  With Evidenced Development(CED)という枠組みの中に未だにあることがわかる。CEDというのはCMSが作り上げた保険適応のフレームワークの一つで、エビデンスが十分で無いが緊急性の高い病態であることから迅速に一定の保険適応を与えるために作り上げられたもので、主に希少疾患だったり限られた治療法に対して使われてきた。

 

このCEDには大きく、①RCT(ランダム化比較試験)に参加した患者のみに保険を適応する、もしくは②レジストリーに参加した患者のみに保険適応する、という2種類がある。

 

今回のCMSの発表を見ると、①から②に切り替えたものの、CEDというフレームワークから外れることはなく、CMSアルツハイマー薬がReasonable and Necessaryであるかという観点に関してデータを求めていると解釈できる(おそらく長期的なアウトカムに特に興味があるのだと思うが)。

 

このレジストリーで蓄えられたデータが解析されることでCEDがどう変化していくか、というのも今後ポイントになりそう。