足し算はできるけれど引き算ができないアメリカ人

ここ数年アメリカ生活の中でアメリカ人(アメリカで生まれ育った人)を見て思ったのがタイトルにあること。算数の話ではなくて、考え方の話です。

 

そう思ったきっかけの一つは仕事仲間とのディスカッション。色々とネクストアクションが出てくる中で、優先順位をつけようとするときに、「これとこれは効果が薄いからリストからドロップしよう」と言うより、シンプルに「これとこれが重要だから先にやろう」と言った方が納得されやすい。

 

ウォークマンを作ったり、侘び寂びが染み込んでいる日本人としては、つい会話の節々に「引き算」による効率化を狙ったコメントが出そうになるのですが(自分の性格的なところも?)、これはネガティブなコメントにしか捉えられてないきがします。

bizgate.nikkei.com

 

コミュニケーション以外のところでも、例えば組織や新しいプロジェクトをみていても、新しいリーダーがきてやることといえば「新チーム作りました!」とか「新プロジェクトローンチ!」とかポジティブなことは多いが、全体をみて「こことここのプロジェクトはDeprioritizeしよう」とか「こことここの組織が被っているから統合しよう」とか、そう言うのは、今みたいな不景気になって初めて議論に挙がっている気がする。そのせいか、よく似たような仕事をしているチームが複数あったり、生きてるのか死んでるのかわからないプロジェクトが一部あったりする。

 

おそらくポジティブ教育というか、「できること」を伸ばそうとする教育の結果であると思うのだけれど、アメリカ人は何かをプラスするのには長けているのだけれど、何かをマイナスして効率化していくという発想はない人が多そう。これをアメリカ人とコミュニケーションするときに気にすると物事がうまく回るのではないかと思う今日この頃。

DTx/Digital therapeuticsの先駆けだったPear Therapeuticsが破産した話

自分の会社のレイオフがアナウンスされてから数週間経ちました。今のところ上司との1on1が設定される気配もないので、くぐり抜けられたのではないかと一安心しています、、、が多くの人が辞めていくのは辛いところ。特定の業界・ファンクションで、簡単にはつけづらいスキルを持った人が辞めていっているのを見ると、レイオフというのはポジション目線でしか考えていないんだな、、、と嫌な気分に。

 

そんな時に、他所様の会社のことを書くのもなんなのですが、まあ僅かばかりでも株主ではあったPear Therapeuticsが破産。

 

そしてたまたまLinkedinにPear TherapeuticsのCEOのポストも上がってきました。

 

このPear Therapeuticsという会社はreSETやSomrystという認知行動療法を利用してオピオイド依存症や不眠症を改善するアプリーいわゆるデジタルセラピューティクスを提供していました。これらはFDAにも承認されています。日本でいうとキュアアップが有名ですね。

 

しかしCEOのLinkedinポストの3段落目にもあるように、あまり保険償還の観点でうまくいっていなかったというのが現状としてありました。Payors have the ability to deny payment for therapiesのところです。

 

この記事によると医者が処方箋を書いても、約半分しか実際に保険会社への請求までまわらず、しかも20%しかPaymentされなかったということです。

www.forbes.com

 

なんでこんな事態になっていたか、医療機器のCoding, Coverage, Paymentの観点から考えてみます。

 

A. まずDTxの保険償還で使うためのCodingが決まるのが遅かった。

 

患者がダイレクトに使うような医療機器の場合、大きく3種類の保険償還方法が考えられます。

①薬と同じように保険償還 - Pharamcy Channel

②保険者から医者・医療機関に払われる支払い、いわゆる日本でいう技術料(CPTコードと呼ばれる請求コード)の形で支払う

DMEと呼ばれる医療機器単体での支払いを請求する(HCPCSコードと呼ばれる請求コードを使う)

 

それぞれProConがあるのですが、②③の方法ではまずコーディングと呼ばれれる、請求の際に使われる支払いコードがないとそもそも使えず、近年までそのコードがDTxにはない状況でした。

 

②に関してはRemote CBTのCPTコードにて償還が可能になり、③に関してもようやくA9291, “Prescription digital behavioral therapy, fda cleared, per course of treatment” というコードが新設されました。

dtxalliance.org

https://www.cms.gov/files/document/2021-hcpcs-application-summary-biannual-2-2021-non-drug-and-non-biological-items-and-services.pdf

 

B. Codingが決まってもCoverageする保険者が少なく、またメディケアがカバーしないことが他の民間保険者も躊躇させていたかもしれない

 

上記の③の新しいコーディングはビッグニュースだったのですが、悪いこともありました。CMSがその決定の際に、「CMS believes that establishing a code at this time may facilitate options for non-Medicare payers to provide access to this therapy in the home setting.」というように、「このコードは民間保険者用ですよ=メディケアで使えるものではなく、メディケアは引き続き保険償還の対象としてみとめません。」と示してしまったのです。

 

比較的コンサバティブな保険業界においては、メディケアが保険対象とするか(カバレッジの対象とするか)は大きく影響を与えます。バイオジェン・エーザイのアデュヘルムがいい例です。

 

C. クリニカル・医療経済性のデータのサポートが(保険者向きとしては)足りなかったかもしれない。

Pearは比較的クリニカルデータ(臨床試験・リアルワールド等)を用意しており、その結果も素晴らしかったのですが、保険者のペインポイントにどこまで響いていたかというのは未知数です。

 

もちろん下の記事のように、支持する保険者もいたでしょうし、実際にいくつかの保険者は、Pearの製品の保険償還を開始していました。

Pear Therapeutics Was Ahead of Its Time | mddionline.com

 

しかしICERという医療経済性を評価する機関は必ずしも肯定的ではありませんでした。いくつかのポイントとしてランダム化比較試験でなかったことや長期のデータが見られなかった点を挙げています。

www.fiercebiotech.com

 

実はこの点は、自分の会社でも頭をひねることが多い点で、FDAがOKするデータと保険者がOKするデータの違いについて理解している人は案外少ないです。特に上市へのスピードも重視される・Configurationが時々刻々とアップデートされうる医療機器では、上市前の臨床データが案外少ない製品が多いです。医療機器の審査も510Kのように必ずしもデータが必要としないルートもあります。

 

これが製品の価格戦略とマッチしているといいのですが、価格引き上げを狙っているにもかかわらず、このような微妙なデータの状況でつっこむと、保険者からは手痛い反応が返ってきます。

 

ということで、残念ながらDTxの先駆け的存在だったPearは破産してしまいました。ただこれ自体は、アメリカでの保険償還戦略の重要さを伝えるケーススタディになったように思います。

ふきあれるレイオフ In 医療機器・製薬@アメリカ

ニュースではアマゾンやらグーグルやらのテック系企業のレイオフが注目されているかと思いますが、私の働く医療機器や製薬でも決して他人ごとではありません。

 

こんなトラッカーが登場するくらい、事業の停止・譲渡やレイオフが行われています。さすがアメリカ。

www.fiercebiotech.com

 

www.massdevice.com

 

自分の会社を見ていて気づいたこととしては、アメリカの企業もいきなりレイオフをするわけではないということ。というのもレイオフすると、いろいろな退職パッケージをふるまわなくては行けず、コストを計上することになるからです。なんとなく感じた手順としては、

①事業売却・組織再編・リストラクチャリング(必ずしもレイオフをともなわない)

②早期退職プログラムの募集

レイオフ

という感じでしょうか。1年前くらいから①は少しずつ行われており、いくつかのポジション(VPやDirectorなどの比較的上のポジション)がなくなり、最近②が50代以上?を目安に開始されました。

 

ここまでくると比較的「ヤバいぜ」的な空気は醸成されていて、ここ半年前くらいから人のターンオーバーが依然と比べて激しくなっていました。①②を緩やかに行うことで自然減を狙って③をなるべく回避しようというような狙いはありそうです。

 

明日は我が身かと怯えつつ、応募できそうなJobPostを片手間にメモしてます。ちなみに上で書いたようなうちの会社の情報が流れてるのか、最近リクルーターから頻繁に連絡が来るのはありがたいのやらなんやら笑

 

ちなみにレイオフ関連でいろんな略語を見かけたのでメモ:

①VERPーVoluntary Early Retirement Program。要は早期退職プログラム。

 

②RIFーReduction In Force。要はレイオフ

 

③FMLAーFamily &Medical Leave。法律で12週間ほど家族や病気を理由に休むことが保証されています(たいてい無給)。この間にレイオフされたら、、、という質問がよくあがってます。

 

④STDーShort Term Diability Leave。短期の障害休暇(有給)。公衆衛生的にはSTDといえば性感染症なんですけどね。

 

アメリカでインスリンの価格が下がったことは、製薬会社にとって必ずしもマイナスではないという話

この数週間でついにイーライリリーに続き、ノボノルディスクやサノフィといったインスリン(ブランド薬)メーカーが続々とインスリン価格を下げるという発表をしました。

jp.reuters.com

 

jp.reuters.com

jp.reuters.com

 

この話、一見すると市場競争という名の下に高価格を維持していた製薬会社がついに米政府のIRA(Inflation Reduction Act)などを通した圧力に負けた、、、というようにも見えますが、個人的な見解としてはむしろ製薬会社としては歓迎するような面もあるのではないかと考えています。

 

インスリンの価格高騰の一因はどこにあるのか?

そもそもインスリンの価格が高騰してきた理由の一つはPBM(Pharmaceutical Benefit Manager)と呼ばれる米国特有の中間業者の存在によるところがあるからです。

 

2021年に南カリフォルニア大学の研究チームが解析した結果を見ていきましょう。下図のように、2014年−2018年でリストプライス(いわゆる定価)は上昇しているものの、ネットプライス(定価からリベートやディスカウントを引いた実質的な製薬会社にとっての価格)やNetExpenditure(ネットプライスに流通業者の利益率だけを上乗せしたもの)はほとんど上昇しておらず、むしろネットプライスは下降しています。

引用元:https://jamanetwork.com/journals/jama-health-forum/fullarticle/2785932

 

では、インスリン価格の内訳はどうなっているのかというと、製薬会社(Manufacturer)や保険会社(HealthPlan)ではなく、次の図のようにPBMや薬局の取り分が大きくなってきています。

引用元:https://jamanetwork.com/journals/jama-health-forum/fullarticle/2785932

 

○なぜPBMは価格が高騰すると得をするのか?

PBMにはいくつかの稼ぎ方がありますが、一つにはリベートを製薬会社から引き出すことです。このリベートの一部は保険会社に還元されるのですが、PBMとしてはこのリベートが多ければ多いほど懐が潤います。

 

PBMはフォーミュラリーという薬のリストを医療保険会社に代わって管理しており、このフォーミュラリーに製品を載せられないとなると、そのPBMが代表している医療保険会社に加入している患者さんには、薬を流通できないことになります(アメリカでは日本のような公的保険は高齢者や低所得者層のみで、大部分は民間の医療保険に加入しなくてはいけません)。

 

なので、インスリンのような競争の大きい製品になると、製薬会社はリベートを多く支払ってでも、製品をフォーミュラリーに載せるインセンティブが働きます。そしてそのリベートの費用はリストプライスに上乗せされていくのです。

 

細かい話ですが、PBMはさらにDispensingFeeなるものを薬局でインスリンが処方されるたびに製薬会社に請求します。このあたりのところはこの記事に詳しいです。

beyondtype1.org

結局製薬会社からすると、別に払いたくもないリベートを払っていたことで、価格が高騰し、世間や政府からの批判を受け、しかも価格の高騰&患者さんの窓口負担の増加で、本当にインスリンが必要な患者さんが必ずしもインスリンを使えないという機会損失を生み出していたわけです。

もちろん過去にはM&Aを繰り返して価格を釣り上げていた悪い製薬会社もいたのですが、ことインスリンに関して言えば少し違った見方もできそうです。

 

上記の記事以外にもこの辺を参考にしました。

www.pbs.org

https://www.ftc.gov/system/files/ftc_gov/pdf/Policy%20Statement%20of%20the%20Federal%20Trade%20Commission%20on%20Rebates%20and%20Fees%20in%20Exchange%20for%20Excluding%20Lower-Cost%20Drug%20Products.near%20final.pdf

 

ワシントンDC

2月の末に有休をとってDCに行ってきました。アメリカでは有給のキャリーオーバー(翌年度への繰り越し)は基本的にないようで、カリフォルニア州などの一部の義務付けされている州以外に住んでいると、基本的には繰越できずに消滅します。

 

ただ消滅するときに会社のPLとしてはLossになるので、会社はこの時期になると消化するように推奨してきており、特に今年は業績が微妙な見通しのため、余計に圧がかっているのです。仕事は減らないのにね。この辺の有給に関する会計処理に興味がある奇特な人はこちらに。たぶんGAAP特有なのではないかと。

www.patriotsoftware.com

 

DCまでは車でおよそ5-6時間。2泊3日なので自然史博物館と宇宙航空博物館にだけ行く予定で組みました。特によかったのは、宇宙航空博物館の別館。Dulles空港のそばにあるのだけれど本館より全然よかったので、オススメです。ディスカバリー号は圧巻でした。

 

国会議事堂の横を素通り

自然史博物館のお目当ては恐竜たち

宇宙航空博物館別館のディスカバリー号

今はなきコンコルド

フライトシュミレーター

片隅に展示されていたロケットの玩具コーナー

たまたま駐車場で見たリビアンのピックアップトラック





冬休みは寒波で特に旅行とかできなかったので、子供にとっては楽しかったようで何より。DCは博物館が無料の事が多い(スミソニアン系列)のが有難い。

 

簡単に2022年を振り返り

いつの間にか2022年も後わずか。今年は色々なイベントもあり、波があった1年だったので備忘録がてら振り返り。

 

出来事その1:ノースカロライナに逆戻り。MBA卒業後、仕事の関係でカリフォルニアに引っ越しましたが、諸々の理由でノースカロライナに戻りました。このへんは生活費的な要素と子育ての環境面としての要素の2つで決まったので、また今度別記事で紹介予定。

 

出来事その2:新しいロールが増えて大忙し。今年の後半は、産休に入った同僚の仕事のカバーがあり、新しいチャレンジが楽しいと思う一方で仕事に忙殺される毎日でした。以前より深く製品開発にマーケットアクセスの観点から関われたのはとても学びが多かった一方で、時間的にも何を達成するかという意味でも選択と集中が今後のテーマであります。

 

出来事その3:自分の中のアジア系もしくは日本人としてのキャラクターのあり方や仕事・生活へのインパクトについて考えさせられる事が多かったです。MBAの時より長期的な視野ができるようになったからでしょうか(本当は学生の時に深く考えるべきだったのだけれど、、、)。バンブーシーリングのような話にも関わってくるかもしれませんが、アメリカでキャリアを構築していく上でどう行動すると良いのか、試行錯誤が続く毎日。一つの発見は、自分のようなノンネイティブだけでなく、アジア系米国人も同様のカルチャーギャップに悩まされているということ(程度の差はあるだろうが)。自分の子供の事を考えると、仕事人としてのみならず親としてどういうキャラクターであるべきなのか、いろんな考えが頭をよぎります。

 

振り返ってみると2022年は人生で一番思いを巡らせた1年でした。来年はこのあたりの雑感に自分なりの決着ができることが目標。

アメリカで働いている人間として「出世する人の英語 アメリカ人の論理と思考習慣」を読む

たまたま仕事で行きづまっていた時に、他の在米日本人のブログでおすすめさてていたので、読んでみました。

www.amazon.co.jp

 

筆者はスターンのMBAを出て外資系事業会社のファイナンスポジションでキャリアを築いてきた方のようで、オーストラリアでの勤務もされていたということで、参考になりそうな経験があるかと思いキンドルでポチリ。

 

全体的の感想としては、次の2点:

①著者の書いていることにはほとんど賛成。過去数年間でオロオロ・失敗しながらなんとなく体得したこと、あるいは仮説的にこうふるまうべきだと思っていたことが、書かれていました。その仮説がある意味検証できたという意味で買ってよかった。

②ただし、「アメリカ人」とあるが「アメリカ人」にもいろいろいるので、ここに書かれていることを心にとめつつ、相手を見てコミュニケーションスタイルを変えることが重要かも。

 

(特に同意した箇所)

・「英語が苦手」とか「Sorry」とかを使用しない

・ものごとをポジティブにとらえる

・できるだけ数字を使う

アメリカ人はストレートにものを言う、、、わけではない

など

(参考になった個所)

・FairとかIntegirityの話

 

(ケースバイケースかなと思った箇所)

アメリカ人は時間厳守→すごい人による。これは上司から部下へのコミュニケーションのパターンのみでは

・どんな質問をしてもOK→実際いろんな質問が飛び交うことは事実だが、その質問を聞いて「あいつの質問はスジがいい・悪い」とかしっかり評価されてるので注意