アメリカでコロナワクチンを受けた話ーなぜこんなにも早くワクチン接種を進められたか。

日本でも少しずつ話題が増えてきていますが、あらためて個人としてアメリカでコロナのワクチンを受けた経験を振り得ってみます。ちなみ南東部州での話です。

 

〇3月半ばに1回目・4月頭に2回目を接種

接種を受けられる優先グループは決まっており、医療従事者・高齢者・First respondersなどが優先で1月から2月ごろまでは、まったく音沙汰なしでした。

 

しかし3月にはいったころ、大学の有給ティーチングアシスタント・フェローをやっていたこともあり大学を通して連絡を受け、結局3月の半ばに1回目接種、3週間後の4月頭に2回目の接種を受けました。メーカーはファイザー・バイオンテックです。

 

その後、JJワクチンも出回るようになり、周りでもワクチンを受けた人の数が一気に増えました。学生・大学関係者はほぼ100%なのではないでしょうか(少なくとも希望した人は)。

 

〇なぜ加速度的にワクチン接種が進んだのか?

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Coronavirus Pandemic (COVID-19) - Statistics and Research - Our World in Data

これはこのサイトから取ってきたデータです(記事執筆時点)。

Fully Vaccinatedのデータを取っています(Vaccinated at least one doseという指標もあるのですが、いったんはこちらで)。

 

こうしてみるとアメリカとイギリスのスピードが抜きんでていますが理由は主に次の3つではないかと思います。

 

理由①物量重視

まずは物量作戦でとにかくワクチン・ワクチンを接種できる会場を確保したこと。

https://www.bloomberg.com/news/articles/2021-04-25/when-will-u-s-vaccination-be-done-we-re-getting-closer

 

理由②コスト・効率性はそこまで気をかけない

また、コストや効率性のような細かいことに拘らず大雑把ながらも、走りながら考えるというような対応をしたこともスピードが速くなったところかと。

www.theatlantic.com

www.nbcnews.com

 

理由③シンプルなところからスタート

そして個人的にはとにかく簡素化したシステムから始めているように感じます。日本みたいにアプリなんて誰もつくりません。接種の記録は大学・州のウェブサイトに登録されたくらいで(これは大学に被雇用者として登録があるため)、メインとしてはCDCの名前が入った紙のカードにロット#・日付・医療従事者のサインを記録するというシンプルな証明書が用意されているだけです。

www.google.com

 

このあたりの物量重視・シンプル思考というのがアメリカでコロナワクチンのロールアウトが加速度的に進んだ理由である気がします。

 

番外編ワクチン開発企業にとってのインセンティブの差

最後にいちおうヘルスケア業界の端くれの端くれとして研究開発的な話について私見

 

アメリカはファイザー・JJ・モデルナ、英国はAZ社のHome countryというロケーションが要因になったのは否定しません。ただし日本でよく出ている国産ワクチンをつくれうんぬんというのは見当はずれなコメントだと思います

 

ライセンスイン・ライセンスアウトといって、知財(情報)ビジネスの側面も見せつつある製薬ビジネスでは、原油のようなTangibleな形はほぼ無意味です(ファイザーはBioNTechとのパートナーシップで恩恵を受けているというのがいい例)。

 

また、そもそも論として日本の製薬企業においてワクチンに強い(販売能力がある、研究開発能力がある、あるいはそれらを強化するインセンティブを持つ)メーカーが皆無なのだから、そもそも国産に拘るのは(短期的には)無茶ぶりだと思います。

wakutin.or.jp

このサイトを見ればわかるように、日系で大手は第一三共と武田のみ。しかも次の記事でわかりますが、2020年1月に初めて武田が海外マーケット展開を企図しました。逆にいえばそれまで日本の製薬企業は国内マーケットしか相手にしてこなかったわけです。

www.nikkei.com

ワクチンは薄利多売のモデル(あくまで製薬の中では)なので、そもそも日本のマーケット限定という狭いパイを4-5社でしのぎを削っているようでは、(特に)武田や第一三共のような大手からすると、魅力も少なく、ワクチン領域に力(人・予算)を割くインセンティブは少なかったと思います(アカデミアは言わずもがな)。

 

なので建設的な方策としては、少なくとも短期的には海外メーカーを念頭に、A:日本でのローンチをいかに早めるか?B:(ゼロサムゲームに陥らないように)日本向けの供給をいかに確保するか、という2点に絞り込むべきだったのではないかと思います。

 

個人的にはどちらの問題も、いかにインセンティブを挙げるかという話のように思います。A.であれば例えば規制・審査上の対応・サポート(金銭・非金銭的)であったり、B.であれば陥いりがちな(そして最適解のない)ゼロサムゲームを回避するために、全体としての供給量を増やすための会社間連携のサポート(金銭・非金銭的)を検討するといった視点があったのでは。

 

ちなみに、もちろん副反応のようなワクチンのリスクベネフィットのような話はいったん捨象して考えていますので、ご容赦を。